タイでコーヒーをのむ
私はひとり、ある日本語学校の控え室で、インスタントコーヒーを入れて飲んでいた。そこへ、タイ人の学校職員が来て、
「せんせい、そのコーヒー、もしかして砂糖もミルクも、入っていないんですか?」
と尋ねてきた。
「そうですけど、なぜですか?」
「やっぱり。日本人のせんせいは、みんな、砂糖もミルクも入れないで飲んでいます。どうしてですか?
苦くないんですか? おいしくないでしょ。」と言われてしまった。
わたしは「タイ人も、辛いのに慣れたら、辛い物がおいしく感じられるように、苦いのだって、慣れるとおいしいんですよ。」と、苦しまぎれに答えたが、果たしてこんな説明でわかってもらえただろうか。
日本人の先生全員が、ブラックで飲んでいた、というのは、私には痛いほどわかる。ブラックコーヒーが恋しいのだ。タイでは、選択の余地がなく砂糖、ミルク入りが普通で、ブラックコーヒーを飲む機会は、ほとんどない。
たとえば、外国人向けのホテルのカフェや、チェンマイでも一件あるスターバックスにでも行けば、本格的なコーヒーが、日本と同じくらいの値段で飲めるが、そんな機会はめったにない。せめて自分でつくるインスタントコーヒーぐらいは、砂糖もミルクも入れないで久し
ぶり飲んでみたい、という心境なのである。
私のようにアパート一人ぐらしで、台所なし、お湯も沸かさない、という環境では、
学校の給湯室という、自分の選択権が発揮できる場所に於いては、断固として、砂糖・ ミルクを入れるはずがない。「何も入れないと、おいしくないですよ」と言われたって、もう全然かまわないのだ。
タイに来たとき、コンビニの冷蔵庫の前に立ち、「Black
cafe」の文字を探したが、見あたらなかった。日本のコンビニでは、缶コーヒーは、売れ筋商品で、種類も豊富、新しいブランドが出てきては消え、とメーカー同士の激しい競争が繰り広げられているが、タイではそのような様子はなさそうだ。どの缶の絵柄も、すでに茶色のコーヒーで、ミルクが今まさに混じり合っている様子が、渦巻きのように描かれていており、おいしそうではあるが、ブラックコーヒーらしき絵柄は見あたらない。
後日、市内の大型スーパーマーケットに行った際、缶コーヒーの棚を探してみたところ、あった。ちゃんと、「Black
cafe」の文字が踊っている。さっそく数本購入して、氷を入れて飲んでみた。しかし、意外にも「甘い」。残念だ。明らかに砂糖が入っている。これには納得がいかず、後日タイ人に尋ねてみたところ、「ミルクが入っていないなら、色は真っ黒。それはブラックと呼んでも間違いではないのでは」。ミルクが入っていないから、ブラックコーヒー、ということのようだ。
日本人の会社員は、一般的にかなりのコーヒー好きで、頻繁に飲んでいるが、タイ人も同じくらいの頻度で飲んでいるようだ。タイ人が言うには、「日本人はコーヒーよりも、緑茶の方を、よく飲むんじゃないですか?」。しかし実際はというと、日本の会社員はコーヒーを飲む人の方が、緑茶より断然多いだろうと思う。
またタイ人は、「緑茶というのは、おいしいですね」とも言ってくれるが、最近タイのコンビニでブームになっている「緑茶」は、砂糖入りである。道ばたの屋台で売っている「緑茶」は、さらにミルク入りだ。一度なじみの「緑茶」屋台のおばさんに、話してみたことがある。「砂糖・ミルクなしで作ったら、意外と売れると思うよ。だって日本ではそれが一般的だし」。しかし、おばさん。「タイではお菓子だからね。甘くなくっちゃ、売れやしないよ」。タイでは、どうしても甘い「緑茶」になってしまう。若者の間では、この「緑茶」は、ダイエットに効果的だと信じられている。だけど、これも結構おいしいけどね。
|